「筒井筒」といえば、懐メロにちょっとでも親しんだ人というか、私が思い浮べるのは、小畑実と藤原亮子の「湯島の白梅(婦系図の歌)」の一節に出てくるの。
こちらの動画は小畑実さんがソロで歌われているバージョン。
この歌自体は、1942年公開の「婦系図」(マキノ正博監督)の主題歌として作られたもの。泉鏡花の原作なんだそうだ。
んで、この歌に出てくる「筒井筒」という言葉、私はこの歌で知ったのだが、井戸を囲むのこと。そんなんがなぜこの歌に出てくるかというと、元を辿ると、伊勢物語に行きつくそうだ。こちらのコトバンクを見ると
《伊勢物語・二三の「筒井つの井筒にかけしまろがたけ過ぎにけらしな妹見ざるまに」の歌から》幼ともだち。幼なじみ。
「―の昔しもふるけれど、振わけ髪のおさなだちより馴れて」〈一葉・花ごもり〉出典: デジタル大辞泉(小学館) https://kotobank.jp/word/%E7%AD%92%E4%BA%95%E7%AD%92-571861
とあり、樋口一葉の用例を引いてある。伊勢物語のこの「筒井筒」の話は、井戸のそばで幼いころ遊んだ幼馴染の男女が紆余曲折を経て結婚するまでの話なんだそうだ。
とまあ、私はこの懐メロで知ったんだが、まあまあ用いられる言葉なんだろう。自分の教養の無さに冷や汗だが、ちょっと前のBSテレ東「武田鉄矢の昭和は輝いていた」でもこの筒井筒のことなどを取り上げていて、当時はみんな知っている言葉だったんだとか言っていた。
今では言えば、幼馴染の恋話(そんなものが現実に存在するのだろうか)で「新一と蘭ねーちゃんかよ」と、名探偵コナンやらガンダムやらの話を例えに出して言うようなもんなんだろう。
実際、横溝正史の『獄門島』読んでいたら、こんな場面が出てきた。
あっはっは、了沢さん、赧くなったね。いいじゃないか、袖をひこうが口説こうが、おまえさんと早苗さんは筒井筒、振り分け髪の幼ななじみだ。
横溝 正史. 金田一耕助ファイル 全22冊合本版 (角川文庫) (p.1082). KADOKAWA / 角川書店. Kindle 版.
作品のヒロイン鬼頭早苗さんと、島の若いお坊さんの了沢さんのことを島の若者たちがからかうシーン。これでこの筒井筒という言葉が当時は、普通の庶民が口にするありふれた言葉(と少なくとも横溝正史がそう思った)だったことがわかる。
ちなみに了沢さんは石坂浩二主演の映画版では池田秀一さんが演じられていたね。映画版では「筒井筒」は出てこないけど。